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評価:
クレメンス・ブレンターノ
冨山房
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(1983-04-01)
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★『ばらになった王子』あるいは『バラの花びら姫』というクレメンス・ブレンターノ(Clemens Brentano:1778年9月9日〜1842年7月28日)の19世紀の作品。クレメンス・ブレンターノはドイツ・ロマン派後期の詩人であり童話作家でもある。『ばらになった王子』はリスベート・ツヴェルガー(Lisbeth Zwerger:1954年、オーストリア・ウィーン生まれ)が絵を担当して、絵本として発売されたもの。初刊は1978年で、日本では1983年に冨山房より池田香代子訳で発売されました。
バラをこよなく愛し、美しく長い髪を大切にしているお姫様ロザリーナ。その妹をたいそう愛し可愛がっている優しき兄ロスミタール公爵。イムマーウントエーヴィッヒ公子を妹ロザリーナ公女に紹介する。けれど結婚を断ってしまう。イムマーウントエーヴィッヒ公子は魔法使いの伯母に相談する。ロザリーナ公女のために、バラに姿を変えた公子(ばらになった王子)の優しい気持ちに胸打たれる。バラの花びらを食べたロザリーナ公女は女の子を身籠る。その女の子はローゼンブレットヘン(バラの花びら)と名付けられる。ロザリーナはこのバラの花びら姫をたいそう可愛がっていたけれど、魔法使いの呪いにより、バラの花びら姫の頭に櫛がささって死んでしまう。ロザリーナはガラスの柩にバラの花びら姫を入れ、哀しみにくれた数年間を過ごす。死期の迫ったロザリーナは兄に、バラの花びら姫が入ったガラスの柩のある部屋の鍵を渡す。「絶対に開けないでください。」と・・・。
『バラの花びら姫』では、ローゼンブレットヘンは美しい14歳の少女に箱ごと成長していた。魔法使いによって、このお姫様は長い年月の間、生きたまま眠らされていたのである。けれど、公爵が留守の折に公爵夫人(美しいが心の良くない夫人)はその部屋を開けてしまう。その生きた美しいお姫様の存在は夫人を憤らせた。酷い仕打ちをし長い髪も切られみすぼらしい姿の少女は奴隷用の仕事着を着せられていた。最後はローゼンブレットヘンは高貴な王子さまのお妃となり、持参金としてロスミタール公国全土を与えられた。イムマーウントエーヴィッヒのバラの木も再び花をつけ、バラが甘く香るある夜のこと、ローゼンブレットヘンが夫君と窓際に寄ると、母と腰元たちがバラの木を跳び、イムマーウントエーヴィッヒの姿も見えた。
「お父様お母様!神の祝福がありますように!」とローゼンブレットヘンは大きな声で言った。すると窓の下の両親たちからも、大きな声が返ってきた。
「ああ!いとしい子供たち!神の祝福がありますように!」と両親たちは空に消えてゆく。
後に、南瓜のような揺り籠を作らせ、可愛い公子を天から授けられる。という「眠り姫」や「白雪姫」のグリム童話のようなメルヒェン。
★この『ばらになった王子』あるいは『バラの花びら姫』のお話は、イタリアの詩人であるジャンバティスタ・バジーレ(Giambattista Basile:1575年〜1632年)の『ペンタメローネ(五日物語)』という作品をクレメンス・ブレンターノが改作したものということです。その他にもブレンターノ童話の名作『ミルテの精』、『ヴィッツェンシュルツェルの話』、『のみの男爵』もこのバジーレの『ペンタメローネ』の中からの改作。ブレンターノの言葉遊びとユーモアは正しくファンタジー!突拍子もない事柄が楽しく軽やかに綴られてゆく。
このバラになった王子の名はイムマーウントエーヴィッヒ公子。イムマーウントエーヴィッヒ「immer und ewig」とは「いついつまでも」という意味が託されています。
『ばらになった王子』は、ドイツ語では「Das Marchen Von Rosenblattchen」、英語では「The Legend of Rosepetal」と題されています。『バラの花びら姫』版は1980年発行のメルヘン文庫のものです。現在は『ばらになった王子』のタイトルが通常のようですが、私は『バラの花びら姫』としてついつい浮かぶのです。